ジュゴンは、その愛らしい姿から多くの人々に親しまれていますが、実は保護が必要な種であることをご存じでしょうか。
ここではジュゴンに関する基本的な情報を詳しくご紹介します。
ジュゴンについての基本情報
英語名
ジュゴンは英語で「Dugong」と表記されます。
この名前は、その特徴的な体形や生態から来ているとされています。
学術的名称
学術的には「Dugong dugon」という学名で分類されています。
この名前は、ラテン語に由来しており、科学的な研究や文献ではこの名称が用いられます。
分類
ジュゴンは「海牛目ジュゴン科ジュゴン属」に分類されます。
海牛目にはジュゴンの他にマナティーなどが含まれており、水生哺乳類の中でも特に大型で鈍重なグループです。
生息範囲
ジュゴンの生息範囲は非常に広く、インド洋から南太平洋にかけての温暖な海域に生息しています。
具体的な地域としては、アフリカの東海岸から、南アジア、東南アジア、オセアニア地域、さらにはオーストラリアの一部地域にも分布しています。
また、アジアでは日本を含む多くの国々で見ることができます。
保護状態
ジュゴンは現在、国際自然保護連合(IUCN)により「絶滅危惧II類(VU, Vulnerable)」に指定されています。
これはジュゴンの生息数が減少しており、絶滅の危機に瀕していることを意味しています。
保護活動が急務であるため、その生態に関する研究や保護対策が世界各地で進められています。
ジュゴンはその独特な生態と、人々に与える印象から多くの関心を集めていますが、その一方で環境変化や人間活動による脅威にさらされています。
ジュゴンの保護と維持に向けた取り組みは、これからもさらに重要性を増していくでしょう。
海中の草食者、海牛類について
海牛類として知られるのは、ジュゴン1種類とマナティー3種類が含まれており、これらは海中に生息する独特の動物です。
これらの中でもアマゾンマナティーを除いた種は海水環境に適応しています。
最新の研究では、これら海牛類が遺伝的にゾウに近いことが明らかになっています。
有胎盤類は、それぞれの特徴に基づいてアフリカ獣類、異節類、真主齧類、ローラシア獣類の4大グループに分類されることが一般的です。
海牛類や長鼻類(ゾウなど)はアフリカ獣類に分類され、このグループには他にハイラックスを含むイワダヌキ目やツチブタを含む管歯目などが含まれます。
海牛類は海に生息する唯一の完全草食哺乳類であり、沿岸部に生える顕花植物を主食としています。
特にジュゴンは、必要に応じて植物の根まで掘り起こして食べることがあります。
彼らの口は、海底の植物を摂食しやすいように下向きになっており、ジュゴンではその傾斜が約70度にもなります。
消化機構においても、海牛類は陸上の牛とは異なる特徴を持ちます。
セルロースやヘミセルロースを消化する能力は哺乳類にはないため、牛は胃を発酵室として特化させ、微生物による発酵を利用しています。
対照的に、ジュゴンやマナティーは盲腸や結腸を利用して後腸発酵を行います。
海牛類の結腸は特に長く、ジュゴンでは25メートルにも及ぶため、食物は長時間体内に留まります。
一般的にウマやゾウの食物滞留時間が20~30時間であるのに対し、海牛類では約150時間と非常に長くなります。
このため、海牛類は効率よく植物から栄養を摂取できますが、その結果、消化が不完全な状態で食物が体外に排出されることがあります。
このため、一部の海牛類は自分の糞を食べる行動が見られ、特にマナティーでこの習性が記録されています。
この行動は消化効率を高めると共に、親から子へと腸内細菌群を伝える役割を果たしています。
このように、海牛類は「海の牛」とも称されることがありますが、その生態や行動は牛とはかなり異なる特異な特性を持ち、他の哺乳類とは異なる独自の持っていて,非常に興味深い生物群です。
ジュゴンの特徴と生態
分類学的な起源
ジュゴンを含む「Sirenia」という科の名前は、ギリシャ神話のセイレーンに由来しています。
セイレーンはその魅惑的な歌声で船乗りたちを惑わせ、多くの船を難破させたと言われる伝説の存在です。
海牛類の化石は約5000万年前と言われる地層にあるようですが、マナティーとは違った形態の動物として分類されます。。
生息域の概要
ジュゴンは東アフリカからオセアニアにかけての温暖な海域を主な生息地としています。
これらは完全に海生の生活を適応しており、海中での生活に特化しています。
対照的に、マナティーはその一部が淡水域にも適応し、生理的には淡水が必要とされる場合があります。
特徴と形態
ジュゴンの成体は体長が2.4メートルから4メートルに及び、体重は平均して230キログラムから570キログラム、通常は250キログラムから300キログラムの範囲です。
性別による体格差は特になく、尾ビレの中央のくびれがマナティーとの識別点になります。
胸鰭はマナティーと比べて短く、爪が存在しません。
ひげは感覚を助ける役割があり、採餌時には食物を口へと導くのに貢献します。
成熟したオスは牙が発達し、口内前部には咀嚼を助ける角質板があります。
また、彼らの臼歯は生涯に渡って成長を続けます。
食性と採餌の特性
ジュゴンは主に海草を食べ、繊維質が少ない種を好むとされていますが、海草が不足すると海藻やホヤ、ゴカイなどの無脊椎動物も食べます。
彼らは自身の体重の約7%に相当する食物を毎日摂取するとされており、特に海底での採餌に特化しています。
その吻は海底の植物を効率的に摂取するために最も下向きになっています。
自然界での捕食者にはシャチやイリエワニ、イタチザメなどがおり、特にサメの活動はジュゴンが採餌地を選ぶ上で重要な要因となり、彼らはより安全な場所を選んで食事をする傾向があります。
ジュゴンの行動特性について
ジュゴンは温暖な海域を好む生物であり、海水温が17度から18度以下に低下すると、彼らは環境への敏感な反応を示し、より適した海域へと移動することが観察されます。
普段の泳ぎは時速約10キロメートルですが、状況に応じて最大時速20キロメートルまで加速する能力を持っています。
また、ジュゴンは平均して約2.5分ごとに呼吸を行い、必要に応じて最大12分間の息止めが可能です。
これらの動物は主に浅い水域に生息しており、普段は水深10メートル以浅の地域を好む一方で、36.5メートルまで潜水することができ、33メートルでの採餌が確認されています。
解剖学的な特徴として、ジュゴンは嗅覚が比較的弱く、嗅葉が小さく鋤鼻器官が欠けていますが、聴覚は発達しており、鯨類と比べても定位能力に優れています。
ジュゴンの社会行動
ジュゴンは海草が豊富な沿岸地域にその生活圏を確立しており、個体間での行動圏が重複することがありますが、縄張りを持つことはありません。
彼らは単独で活動することもあれば、群れを形成して生活することもあります。
特に餌場や温水源の近くでは、群れが300頭に達することもありますが、群れ内の結びつきは非常に流動的で弱いです。
母子関係では、独身の個体よりも群れに参加することが少ない傾向が見られます。
ジュゴンの繁殖行動
繁殖期には、ジュゴンは複数の異性と交尾する行動を見せます。
この期間中、メスの周りには多数のオスが集まり、交尾群を形成することがあります。
また、交尾のために特別な領域である「レック」が形成されることもあります。
妊娠期間は約14から15ヵ月に及び、出産間隔は2.5年から7年と非常に長いです。
通常、ジュゴンは一度の出産で一頭の子を産みます。
新生児の体長は1メートルから1.3メートル、体重は25キログラムから35キログラムの範囲です。
子どもは生後3ヵ月で植物を食べ始め、生後18ヵ月までは母乳を摂取します。
育児は母親が担当し、子供は通常、母親の後ろで泳ぐことが多いです。
オスもメスも約7歳で性成熟に達し、寿命は最長で73歳に達することが知られていますが、一般的には約60年の寿命が見込まれます。
人間とジュゴンの相互作用
絶滅の危機と保護策
ジュゴンは古くから人間の活動による影響を受けています。
アラブ首長国連邦での考古学的調査により、ジュゴンの狩猟が6000年前から行われていたことが明らかになっています。
さらに、1600年から1900年にかけてのトレス海峡地域では、1万頭以上のジュゴンが捕獲された可能性が示されています。
ジュゴンはその全身が利用され、肉、生殖器(媚薬やお守りとして)、牙(装飾品として)、骨や歯(工芸品として)、尾びれ(燃料として)、さらには涙(媚薬や香水として)まで、多方面で利用されてきました。
これにより、高い市場価値を持つジュゴンは、狩猟禁止区域であっても密猟の対象となっています。
オーストラリアでは先住民に限り狩猟が認められているが、これが狩猟圧を増大させています。
また、漁業による誤捕も深刻な問題で、1962年から1992年にかけて、クイーンズランド州でサメから海水浴客を保護する目的で設置された網に、約8,400頭のジュゴンが捕獲されています。
これらのジュゴンは意図しない被害を受けているのです。
さらに、生息地の減少もジュゴンにとって大きな脅威です。
ジュゴンの生息地は世界中で急速に減少しており、この生態系は地球上で最も脅威にさらされているものの一つです。
これに対処するために、生物多様性条約、ワシントン条約(CITES)、ボン条約、ラムサール条約など、国際的な保護の枠組みが設けられていますが、実際の保護施策の実施は十分ではなく、「紙上の保護区」としての存在が多いのが現状です。
ジュゴンの現在の個体数は減少しており、IUCNのレッドリストで絶滅危惧II類に指定され、CITES附属書Iに記載されて国際取引が原則として禁止されています。
2005年の調査では、オーストラリア北部に約7万頭が生息していると推定されましたが、日本では沖縄島周辺での確認された個体は2019年3月を最後にすべて死亡または行方不明となっています。
動物園でのジュゴン飼育の現状
2023年現在、ジュゴンを飼育している世界の施設は非常に限られており、その数は2か所のみです。
一つはオーストラリアのシドニー水族館であり、もう一つは日本の三重県に位置する鳥羽水族館です。
鳥羽水族館は、ジュゴンの他にアフリカマナティーやラッコなど、多種多様な海生哺乳類の飼育でも知られており、飼育種数日本一とされています。
特に海牛類が2種も観察できることは、世界的にも珍しく、鳥羽水族館はその点で特に注目される施設です。
まとめ:人間とジュゴンの関係と現代における課題
ジュゴンは古来から人間の活動に大きく影響を受けてきました。
約6,000年前からジュゴンが人間に狩猟されていた証拠がアラブ首長国連邦の遺跡から発掘されており、1600年から1900年の間にはトレス海峡で1万頭以上のジュゴンが捕獲されたとされています。
ジュゴンはその肉や、生殖器、牙、骨、尾びれ、涙など、様々な部位が多目的に利用されてきました。
今日でも、ジュゴンの体の各部位が持つ高い市場価値により、保護区域内でさえ密猟が後を絶たない状況です。
さらに、漁業による誤捕や生息地の破壊もジュゴンにとって深刻な脅威となっており、特にクイーンズランド州でのサメ除け網による誤捕や生息地減少はジュゴンの存続に直接的な影響を与えています。
国際社会ではジュゴン保護のために生物多様性条約、ワシントン条約(CITES)、ボン条約、ラムサール条約などの枠組みを設けていますが、これらの取り組みが現場で十分に機能しているわけではなく、「紙上の保護区」という問題が指摘されています。
ジュゴンの個体数は減少傾向にあり、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧II類に指定され、CITES附属書Iに記載されており、国際取引は原則として禁止されています。
飼育施設においても、ジュゴンを飼育しているのは世界で非常に限られた数の施設のみで、オーストラリアのシドニー水族館と日本の鳥羽水族館がその全てです。
これらの施設ではジュゴンのみならず、他の多様な海生哺乳類も飼育されており、特に鳥羽水族館はそのユニークな取り組みで知られています。
ジュゴンの保全には国際的な保護法の厳格な適用と実施、密猟の阻止、生息地の持続可能な保全、そして一般の意識向上が不可欠です。
これらの努力がジュゴンの未来を左右し、絶滅の危機から彼らを守る鍵となります。